「豊かな食文化 受け継ぐ心意気(豊富編)」豊富町で食文化の伝承と交流を続けている「農村生活文化伝承活動をすすめる会」による牛乳豆腐のたまごとじ、イタドリの和え物、そして豊富温泉、川島旅館の湯治料理と、それらを支える豊富町の豊かな食材について

北海道市町村振興協会発行 政策情報誌「プラクティス」第14号 7回目は「豊かな食文化 受け継ぐ心意気(豊富編)」と題しまして豊富町で食文化の伝承と交流を続けている「農村生活文化伝承活動をすすめる会」による牛乳豆腐のたまごとじ、イタドリの和え物、そして豊富温泉、川島旅館の湯治料理と、それらを支える豊富町の豊かな食材について書かせて頂きました。 北海道の自治体職員向け政策情報紙への執筆依頼をいただき、2012年1月から連載開始しました。


町の食材で食文化交流
 
 豊富町は1万6000頭もの乳牛を飼育している道内有数の酪農地帯です。また、町内の稚咲内漁港に水揚げされるホッキやサケなどの海産物、ネマガリダケやエゾカンゾウといった山菜もたくさんあります。「豊富」という地名は、石油や石炭、天然ガスなどの地下資源が豊富であることに由来しますが、海や山の食材もまた豊富な町なのです。
 町内では昭和60年に、食を含めた地域の多彩な文化を継承しようと、酪農家のシニア世代を中心に「農村生活文化伝承活動をすすめる会」が設立され、現在は14人の女性が活動を続けています。
 酪農は夜明け前から牛舎の清掃や餌やりなどが始まる重労働です。近隣の家まで遠く、市街地の住民とは生活リズムも違うので、酪農家の人たちは、同じ町民でも疎遠になりがちです。そこで会員の皆さんは日頃から、町内で自家製野菜の栽培方法や、漬物の作り方などを教え合ったり、町内のイベントで披露したりして、食文化の伝承と交流をしています。今回は、太田アサ子会長と長尾きよ子副会長におすすめの郷土料理を教えて頂きました。

牛乳豆腐の卵とじ
 
 一つめは、会員の皆さんがいつも食べている牛乳豆腐の卵とじ。白くてふんわりした牛乳豆腐が卵に包まれ、だししょうゆが染みた、どこか懐かしさを感じるやさしい味です。
 まずは2㍑の牛乳を鍋に入れて中火にかけます。沸騰しない程度に温め、食酢1カップを少しずつ加えながらゆっくりかき混ぜます。白い固まりと水分に分離したら、お玉ですくってザルに上げ、水気を切ると牛乳豆腐のできあがり。ニンジン、タマネギ、シイタケをサラダ油で炒め、材料が浸るくらいのだし汁を加え、しょうゆで味を調えます。ほぐした牛乳豆腐を入れて10分ほど煮て、長ネギと溶き卵を入れてサッと混ぜ、軽く火を通したら完成です。

イタドリのあえ物

 太田会長のオススメはイタドリのあえ物です。道ばたや畑に生えているあのイタドリを使った料理です。
 青森出身で、豊富町に嫁いできた会員の菅ナミさんがある日、「イタドリを炒め物やみそ汁の具としておいしく食べた」と懐かしそうに語りました。大半の会員は「イタドリが食べられるの?」と驚きましたが、考えてみると豊富でも昔は、道端にあるイタドリの茎をポキっと折り、おやつ代わりにかじっていたとか。まさに〝道草〟を食べていたわけです。
 菅さんの話をヒントに、会のメンバーは毎年、イタドリの塩漬けを作るようになりました。茎の中に虫が入っておらず、適度な柔らかさがあるイタドリを収穫できるのは5~6月に限られます。風が当たらず、土がよく肥えた秘密の場所で、会員総出で軽トラック2台分ものイタドリを収穫するそうです。収穫したイタドリは、茎の長さを切りそろえ、棒を茎の中に入れて節を抜きます。
 次は湯通しです。炭鉱があった名残で、町内の川岸では今も石炭を拾うことができます。まきと石炭を燃料にして、ドラム缶を半分に切ったストーブを使い、火加減に気を付けながら大釜でお湯を沸かし、イタドリをゆでます。適度な歯応えが残るゆで加減は、毎年研究を重ねてきた長尾副会長の腕のみせ所です。
 ゆで上がると皮をむき、樽の中で塩をまぶして混ぜ、軽く重石をして荒漬けします。1時間ほどで水分が抜けてきたら、本漬け用の樽に塩と交互に重ねて詰め、最後にたっぷり塩をかけます。1~2時間で水が出てきます。水を捨ててから密封して、5㌔ほどの重石をして、風通しの良い冷暗所で3カ月程度漬けます。料理に使う時には塩抜きをして、キムチとあえたり、中華風の味付けにします。歯ごたえのある食感が人気で、会では商品化を進め、宗谷管内のイベントで販売しています。

湯治客に毎日美味しい料理を

 豊富温泉は、保湿効果の高い泉質がアトピー性皮膚炎などに効果があるとして、全国各地から訪れる湯治客が年間延べ約3万泊もしているそうです。1カ月以上の長期滞在をする人もいますが、旅館で毎日同じ食事では飽きてしまいます。そこで「地元食材を使った健康に良いメニューを日替わりで提供しよう」と考えたのが、川島旅館三代目湯守で板長を務める松本康宏さんです。
 松本さんは親戚の漁業者をはじめ、鮮度の良い鹿肉を扱う「サロベツベニソン」という食肉加工場から食材を仕入れます。もちろん有名な豊富牛乳も使います。山菜や自家産の野菜、自分で釣ったヤマメなどを持ち寄る住民も多くいるそうです。
 開業当時からの人気メニューは山菜料理です。タケノコ(ネマガリタケ)は、旬の時期には皮のまま焼きます。タケノコと毛ガニのむき身を砂糖としょうゆで味付けした炒め煮を目当てに訪れる人もいます。町の花でもあるエゾカンゾウは花の酢漬けや天ぷらにして楽しみます。
 稚咲内漁港で水揚げされたホッキ貝を使った「バクダン」という料理も自信作です。水切りした豆腐をマッシャーでつぶし、卵と長芋を混ぜ砂糖と塩で味付けします。豆腐が滑らかになったら、ホッキやカニなどお好みの食材をたっぷりと入れて包みます。丸く形を整えてから油で揚げ、刻みネギとおろしショウガを乗せ、だしをかけたら完成です。
 大人気のデザートは、豊富産の牛乳と豊富牛乳公社から仕入れた乳脂肪50%以上の良質な生クリームを使った「湯あがり温泉プリン」です。生クリームをふんだんに使った濃厚な食感が評判のヒット商品になり、松本さんは加工場を設けてネット販売もしています。
 川島旅館では2カ月近く滞在しても、同じメニューは出てきません。体調が回復した湯治客からは「ご飯がおいしくて太ってしまいます」とうれしい悲鳴も。松本さんは「湯治客は豊富の空気や水、食事、温泉で健康を取り戻していきます。人の体は環境に左右されるということを実感します」と話してくれました。 
 今回は豊富町の山や海で育まれたおいしい食材と心温まる料理の数々を教わりました。次回も道内各地の魅力的な食材をレポートします。

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